陰と光
衝撃的な(撮影)体験の結果は、当然ヘロヘロでした。
感情にまかせて撮りまくったショットは、大部分が説得力を持たないアマチュアフォト(僕自身アマチュアでしたが、、)の域を出ず、特にストロボを使った写真は、そのエログロさだけが目立ってしまい、かえって拒絶感を持たれかねない代物でした。
しかし、これで僕の負けん気に火がついてしまいました。

あの晩のショッキングな出来事は、まだ生々しく瞼に焼き付いていました。
あのようなアングラムーブメントを知らずに、ダラダラと過ごしてきたカメラマンとしての怠慢を猛省すると同時に、人間をあそこまで変貌させてしまう、得体の知れないエネルギーの凄さを、世に知らしめたい。
やっと探し当てた写真のテーマを前に、胸が躍りました。

当時のアングラシーンは、『じゃがたら』を筆頭格に『スターリン』『ぐんじょうがクレヨン』『タオ・セントラルステーション』等の、カテゴリーに囚われない自由で奇抜なパフォーマンス集団を、続々と生み出していました。
会場で貰うチラシをたよりに別のライブに行くと、必ず面白いバンドに出会えました。
多少音楽をかじったカメラマンの卵にとっては、そこはワクワクする被写体の宝庫でした。
アシスタント時代のファッション撮影や、ナンパ気分の街角スナップとは違い、好きな音楽に身を任せながら、感覚的にシャッターを切るという行為が、自分にはとても自然だったのです。
必ずしも共感を持てる音楽ばかりではありませんでしたが、彼らの度肝を抜くアイデアや行動力には、素直に感動を覚えていたのです。

あるライブハウスでの体験です。
普段はイスの置かれているフロアーが、壁を含めすべてビニールシートで覆われていました。
ライブ直前になっても、客たちは後方から遠巻きに眺めているだけです。
程なく、バンドのローディーが幾つもの青いポリバケツを、重そうにステージに引きずって来るのが目に入りました。
悪い予感がした僕は、急遽手近にあったコンビニ袋でカメラを包み、上半身裸になり覚悟を決めました。

案の定、最悪のライブが幕を開けました。
演奏(と言うよりほとんどノイズ)と同時に、すでに興奮状態のバンドのメンバーらが、手当たり次第バケツの中の臓物を、客に向けて投げ始めたのです。
逃げまどう観客達の壮絶な悲鳴と、アバンギャルド(?)な演奏の、前代未聞これぞ酒池肉林のコラボレーションでした。

自分の参加していたバンドは、決して上手ではありませんでしたが、もう少し正攻法で音楽と向き合っていたつもりでした。
世の中には、完成度の高い音楽は他に幾らでもあるはずです。
なのに何故、お客達はわざわざチケットを買い、身の危険を冒してまで、こんな乱痴気騒ぎを見に来るんだろう?
頭上を飛び交う骨や肉片を避けながら、その事ばかりを考えていました。

バイトの合間にそんな撮影を続け、半年も経った頃でしょうか。
ようやく、その答えらしきものを見つけられたのは、とあるライブでの出来事がきっかけでした。

ロックでは珍しく、全席畳敷きのその会場(公民館)では、観客は皆靴を脱ぎ足を崩し、思い思いにくつろいでいました。
そこだけを見ると、まるで大衆演劇か落語の高座を待っているような、ほのぼのとした風景でした。
ところが反対側に目を転じると、そこにはあたかも動物園のオリのような、巨大な金網が舞台前面に張り巡らせてありました。

そしてその日は、あの『じゃがたら』のライブだったのです。


(つづく)




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