夢と現実+
小学館写楽編集部は、僕の想像を遥かに超える広さで、数えきれない程のデスクの間を、沢山のスタッフ達が慌ただしく飛び回っていました。
電話で面会の約束を取り付けていたにも関わらず、受付らしきものが見当たらないため、しばらくは入り口で立ちすくんでいた僕でしたが、思い切って精一杯の声を出し、近くのスタッフに用件を告げました。
数分後やってきた男性は、いかにも心此処にあらずといった感じで、僕を応接コーナーらしき場所へと案内してくれました。

時折周りのスタッフに指示を出しながら、
『とりあえず見せて』と思い出したように彼は言いました。
そこで僕は初めて、応接テーブルだと思っていたのが、実は巨大なライトテーブルだと気づいたのです。
何から何までスケールが違う光景にすっかり意気消沈していた僕は、やっぱり来るんじゃなかったと本気で後悔していました。

『で、どういう写真なの?』
再度言われた僕は、怖ず怖ずとポジの束を差し出しました。

『マウントしてないんだ』
冷たいリアクションに、完全に固まってしまいました。

無言のままルーペを取り出した彼は、ものすごいスピードで写真をチェックし出しました。

ス〜ス〜っと滑るように、ポジの束を片端から見てゆきます。
これがプロの現場ってものかと感心しながら、僕はその姿をぼんやり眺めていました。
あれだけ試行錯誤を重ねた作品達が、ほんの数秒で見終わられてしまうという厳しい現実に、寂しさを感じる余裕もありませんでした。
それよりも、これだけ忙しい人達の邪魔をしている自分に、罪悪感すら感じ始めていました。
たとえ一度きりだとしても、このような第一線の現場の空気を吸えただけで十分満足でした。
また明日からバイトで頑張ろう。
急に仲間達が恋しくなってきました。

『ありがとうございました。また出直してきます。』

そう言いかけた時、彼の動きのスピードが少しずつ落ちてきたような気がしました。
見終わった写真にまた戻ったり、1枚の写真でしばらく止まったり、(気のせいか)小さなため息をついたりしています。
そして勢い良く顔を上げた彼は、

『凄いね〜コレッ!こんな連中が本当にいるんだ!!』

と、初めて僕の目を見て、そう言ったのです。

思いがけない言葉に、一瞬頭が真っ白になりましたが、

『まだ沢山いますけど、、、』

そう答えるのが精一杯でした。

『もっと撮って来てよ!凄いよコレ!!』

まるで絵に描いたような展開に、もはや返す言葉もありませんでした。
思考停止状態のまま、とりあえずこの場を立ち去りたくなった僕は、挨拶もそこそこに写真の束を抱えて立ち上がりました。

『また出直してきます!』

つい今しがた口にしようとしていた台詞が、僕を現実に戻してくれました。
言いようのない感覚に浸りながら編集部を出ようとした僕を、彼が呼び止めました。

『ちょっと待って! これ持って行きなよ!!』

『助かるでしょ!』

はじめてニヤッと笑ったN氏が差し出したのは、山盛りのKodak20本フィルムパックでした。

『現像もうちの名前で出せばタダだからさ〜』

ネタもカメラマンもアングラ丸出しだったのでしょう。
キャパを完全に超えた展開に、ほとんど泣き出しそうになっていた僕でありました。


(つづく)





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