現実と夢
調子の良い電話の主は、少女向け月刊誌【ポップティーン】の編集者O氏でした。
後から知ったのですが、その本は過激な内容が国会で取り上げられるような、出版界における最もアバンギャルドな雑誌だったのです。
僕のようなカメラマンにお声がかかったのも当然のことでした。
それにしても、このヌード撮影に関してはさすがに世間体もあり正直迷いましたが、『何でも経験!』と囁く真面目な方の僕が勝り、とにかく彼に会って話を聞いてみることにしました。

目の前に現れたO氏は相変わらず軽い口調でしたが、目をそらさずに話をする好人物でした。

『普通にキレイキレイに撮れるカメラマンは、いくらでもいるのよ。』

彼は熱っぽく語りました。

『君の写真はちょっと違う。 何かあるよ!』

と、嬉しいことを言ってくれます。

結局そうやってまんまとおだてられ、僕の職業カメラマンとしてのスタートは怪しげな雑誌の怪しげな企画で船出を迎える事になったのでした。

彼の話によると、この企画は【ポップティーン】の読者から彼氏や知り合いを募集し、自然の中や部屋で彼らのヌード写真を撮り、それを雑誌の巻頭グラビアで大特集するというものでした。
さすが全国のPTAを敵に回すだけあり、普通の女の子雑誌では手を出さないような危ない橋を堂々と渡っていました。
裸の男達にはもう十分慣れていましたし、今度は襲いかかってこられない分楽だろうと、半ば開き直りの気分で仕事を引き受ける事にしました。

撮影当日、ロケ現場にやってきた素人モデル達の表情は硬く、どこから見ても美少年の形容詞は浮かんで来ませんでした。
ヘアメイクさんにいじられた後もどこか不自然で、どちらかと言えば2流のオカマちゃんに近い状態でした。
当然その動きはぎこちなく、撮影は苦戦が予想されました。
内心当惑しながらも、僕もプロ(?)としての面目を保たなくてはなりません。
さも慣れたフリであれこれ指示を出してみました。

『上目遣いにレンズを見て〜』 『もう少し右〜 じゃなくて左〜 、、やっぱ正面〜 、、、 』

彼らをどこからどう狙っても、どのモデルも明らかにに凍り付いています。
無駄に時間とフィルムだけが消費されていきました。

それまでモデル撮影はほとんど経験のない僕には、ファッションンカメラマンの助手時代の経験が持ち技のすべてでした。
ライティングはそれなりのつもりでしたが、今回はどうも勝手が違いました。
いつどこでシャッターを押してもさまになるプロの外人モデルと、そこら辺のアンチャンを同じ土俵に上げる方が悪いに決まっています。
そんな環境で納得のゆくショットが撮れるはずもなく、このままではエログロの世界再現かという、危ない瀬戸際に立たされてしまいました。
遠くで見守る編集者も、さすがに心配そうにこちらの様子をうかがっています。

結局のところ、化粧をするのも初めてなら(多分)、銭湯以外の場所で裸になったこともない連中相手に妖艶な世界を演出することなど、女性ヌードすら撮った経験もない僕にとっては暴挙に等しい行為だったわけです。
出だし早々冷や汗をかく、似非プロカメラマンなのでした。



(つづく)




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