表層と本質+++

地を這うようなベースの音が、やがて地鳴りのようにホール中に響き渡り、
悪戯小僧のようなギターの音色がじゃれるように絡みつき、
高まる心臓の鼓動のようなドラムのリズムが仲間に加わると、
RCのオープニング曲(よォーこそ)のお膳立ては整いました。

100年間禁欲していた若僧どもが、一斉にシャバに放たれたような凄まじい情念の渦で、あっという間に場内は興奮の坩堝と化してしまいました。
観客達は、そのひしゃげた腕を(まるで痙攣しているかのように)バンドに向かって必死になって伸ばしています。
それぞれの指先から激しくほとばしるエネルギーが、まるで1本の図太いプラズマになってステージに向かって放電されているように見えました。

(バンドと観客の双方の音圧で正気を失ってしまいそうな状況の中、僕がかろうじて冷静さを保っていられたのは、必死の形相で客を押しとどめている警備員の姿が目に入ったからでした。)

やがてすべての音が螺旋状にねっとりと交わり、1匹の大蛇のようにその鎌首をもたげた瞬間、そこへ花びらのように舞い込んで来たのが、キヨシローでした。

しゃがれたような、それでいて伸びのある、生で聞くと一段と迫力のある不思議な歌声が、最後の一撃を僕にくれました。



『 よく来てくれた〜! このコンサートに〜 』



『 よく来てくれた〜! こんな夜に〜 』



『 よく来てくれた〜! わざわざここまで〜 』



『 よく来てくれた〜!! よォ〜こそ〜!!! 』



これほどストレートなオープニング曲があったでしょうか?
何の飾りも無くそれでいて鮮烈なメッセージが、僕の脳みそ一気にをシェイクしてくれました。
けっして大げさな表現でなく、僕はその時全身が痺れる程の感動を受けたのです。

10分前に楽屋で目にしていたのとは、まったく別の男達がそこにはいました。
キヨシローのしなやかに歌い踊るその姿は、まさに蝶のように華麗で、流れるような動きにまといつく極彩色の衣装は、まるでベタ(闘魚)のヒレを連想させました。
その(完璧な)姿に圧倒された僕は、おろかにも衣装の色使いやコーディネートが気になっていたことが、恥ずかしく思えて仕方ありませんでした。
あの大人しそうなメンバー達も、楽屋とは打って変わり自信に満ちた表情で観客席をゆったりと見渡し、優雅に演奏を楽しんでいます。

場内の誰もが、彼らRCサクセションに合わせて歌い踊っていました。
まさか1曲目からこんな状況になろうとは、予想外の展開に僕が戸惑ったのもわずかの間だけで、泣き叫ぶ観客の波にもまれているうちに、僕はファインダーから目を離し、カメラを胸元に抱えたままノーファインダーで撮り始めていました。
目の前のこの光景を、フィルムだけでなく自分の網膜にも焼き付けたくなったからでした。

僕は生まれて初めて、歌いながらシャッターを切りました。
フィルム交換の最中も、ステージから目を離さないまま歌っていました。
会場の中の皆と自分が、完全に溶け合っている実感がありました。

そんな風に写真を撮ったのは、後にも先にもこの夜だけのことでした。


(つづく)





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