幸せな出会い
無理難題は付きもののこのお仕事、しかし今回の悩みの本質は、実はとても深いところにありました。
それは、僕が直接家族の皆様のメッセージを頂戴したり、はたまた至近距離でお顔を拝見していた経緯も大きく影響していたのでしょう。
このブログやトークイベントにおいて、その場しのぎの綺麗ごとを並べたてたつもりはなかったのですが、発売を心待ちにしている方々に、僕がここで安直な映像をお見せしてしまったとしたら、取り返しのつかない大失態となってしまいます。
せっかくの機会、皆様の御期待を良い意味で裏切りたいという僕の思いとは裏腹に、事態は一向に進展しないままでした。

ところが、そんな僕の前に忽然と一人の救世主が現れたのです。
それは"MASAKI"という名のバイオリニストでした。
実はDVDの発売にあたり、イベント2日目のBGMをリニューアルすることになり、そのための楽曲を提供してくれたのが彼なのです。
イベント本番のBGMはとても素晴らしいものだったのですが、複数の作家の作品を用いていた為、多少統一感に欠けていたのです。
その選曲も任された僕は、彼の4枚のCDを朝から晩まで事務所で流し続けました。
普段余りクラシックは聞かない僕ですが、彼の音楽は最初からとても馴染み易く、どちらかと言えばイージーリスニングに近い印象を持ちました。
しかし、単に耳ざわりが心地良いだけでなく、初めて聴くのに何処か懐かしさと不思議な安らぎを覚える、粒ぞろいの素晴らしい作品ばかりだったのです。
それらの楽曲のイメージは、いみじくも今回の映像の意図にピタリとはまり、あたかもこの映画の音楽監督として"MASAKI"さんが存在していたかのようでした。

単なる偶然にしては出来過ぎの感がありましたが、僕にとってこれ以上の幸運はありません。
さっそく手当たり次第に気になる曲を抜き出し、映像の必要箇所に当ててみたのです。
そこでまず不思議なことが起こりました。
彼の曲達には、"ももいろの潮風"や"父さんがくれたビー玉"など、それぞれユニークなタイトルが付けられているのですが、それが本作の世界観に驚くほど合致していたのです。
例えば、ぺ・ヨンジュン氏が自作の詩を朗読する場面で使用した曲のタイトルが"infinity"とくれば、映画をご覧になった方でしたら良くお分かりになることでしょう。
しかも、示し合わせたかのように曲と映像の長さまでドンピシャと一致してしまうのですから、もはや僕は苦笑いするしかありませんでした。

"MASAKI"さんは、幼い頃から一家でオーストラリアに渡り、音楽家のお父上の英才教育で育ったそうです。
そのため難しい日本語は余りお得意ではないようですが、かえってその素朴な会話が彼の飾らない人柄を引き立てているようです。
僕は幾度かお会いしましたが、とても気さくな好青年で、すぐに打ち解けることができました。

長年この仕事に携わっているうちに、良質の音楽はテレパシーに近いのではないかと、僕は次第に考えるようになりました。
その作品が産み落とされた瞬間の作家の感情が、歪まずに受け手に伝わったとき、そしてその喜びや悲しみを共有できたとき、そこに感動が生まれます。(これは全ての創作物の共通項ですよね。)
ひとつの創作物を前にして、その人の心の共鳴板が作者と同じ周波数で震え始めたとき、その証として涙がこぼれます。
そんな作品の源泉には、限りなくピュアな感動がなくてはなりません。
その感動が骨太であればあるほど、その作品は多くの人々の感情を揺れ動かします。
残念ながら、ただヒットすることのみを目的とした作品には、そこが決定的に欠けていることが多いのです。
巧みなプロモーションやタイアップでビジネス的に成功したとしても、そんな使い捨てのような物は人の心の深みに残るはずもありません。
(そんなこと、はなから望んでいないのかも知れませんが、)
要するに、作者の感情がどれだけ劣化しないで他人の心まで響くのか、そのことのみがその作品を評価する尺度だと思うのです。

その観点からすると、"MASAKI"さんの音楽はテレパシーと呼ぶに相応しいものでした。
しかも、それが小難しくひねってある世界ではなく、何処にでもあるような日常を、さり気なく切り取っているところが、僕はいたく気に入ってしまったのです。
感動とは決して大袈裟なものではなく、うっかり見過ごしてしまいそうな何気ない日常風景の物陰にも潜んでいるものです。
彼の創作物から、作者の純粋で深い洞察力を僕は感じ取れたのでした。
ほとんどのBGMの選択を終えた後、僕は選りすぐりの3曲を繰り返し聴きながら、1人ほくそ笑んでいました。
何故なら、この曲達には特別な任務が与えられたからです。
これらを最初に耳にした時から、僕の中で新たな創作意欲が沸々と湧いて来ていました。
それまで思い悩んでいたことが嘘のように思える、あるアイデアが閃いたからでした。

(つづく)

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