夢と現実
そうこうしているうちに、本当に少しずつではありますが、自分の納得のゆく写真がストックされてきました。
自身初テーマでの撮影行為に、少なからず満足感を覚えていた自分でしたが、作品をどこかに発表したいという思いが日々大きくなってゆくのに、内心戸惑ってもいたのです。
当時アシスタントをしていたプロの先生に相談したところ、ある男性週刊誌を紹介されました。
自分の名前がクレジットされる欲も当然ありましたが、これらの写真がどう扱われるかは容易に察しがつきました。
確かにセンセーショナルなネタではありましたが、その表層だけを捉えられゲテモノ扱いされることだけは、絶対に避けたかったのです。
長い時間をかけて使い捨て写真を撮ってきたんじゃない、という根拠の無いプライドもあったように思います。
確かに、粗野なバンド連中やネクラな客達に対し、僕の中で妙な親近感が湧いていたのも事実です。
けれども、自分のつたない表現ではあっても、彼らのエネルギーを真正面から伝えたいという思いだけは、意地でも貫こうと決めていました。
結局、他にこれといったツテも無い僕には、乏しいバイトの稼ぎをフィルム代につぎ込むしか選択はありませんでした。

ちょうど同じ頃、日本のフォトジャーナリズム界に、衝撃的な出来事が起こっていました。
写真月刊誌『写楽』の創刊です。
日本写真界の重鎮(篠山紀信)氏の全面プロデュースで生まれたこの雑誌は、大胆な写真使いと意表をつくコピー等、名うてのクリエーター達の斬新な発想で、紙面が埋め尽くされていました。
有名無名に関わらず、その作品が全国的に認知されるという、写真家にとってまさに夢のような媒体の誕生だったのです。
この本で初ヌードを披露するアイドルや女優陣も、その人気に華を添えていました。
『写楽』は、カメラマンを夢見る者にとって、程なく憧れの存在となりました。
ある意味、プロカメラマンへの登竜門とも言えました。
当然競争も激しく、各方面のプロカメラマン達がこぞって売り込みに出向いているという風の噂は、場末の僕の耳にも届いていました。

バイトの合間に最新刊を眺めては、深いため息をついていた自分ですが、ある時ふと思い浮かべたイメージが、頭から離れなくなってしまったのです。
幾度となく忘れようとしたのですが、どうしても無理でした。

『写楽に売り込みに行ってみようか、、』

自分からそんな大胆なことを考えたのは、後にも先にもこの時だけです。
ろくすっぽ腕も知識もコネも無い一般人が、そんな大それた事をしていいのだろうかと、想像しただけで冷や汗が滲んだものです。
それからしばらくは、強気と弱気の交錯する落ち着かない日々が続きました。
仕事に集中していないと、ペンキ屋の親方にどやされたりもしました。

数週間後、意を決して出版社へと向かった僕は、閑散とした昼下がりの地下鉄に1人座り、窓に映る頼りない自分の姿を眺めていました。

『ひょっとして、これで人生が変わったりして、、、』
そう自分に言い聞かせるようにぼんやり考えていたのを、妙にはっきりと覚えています。


(つづく)









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