夢と現実++


【写楽】副編集長N氏の強力なバックアップの元、その後数ヶ月間撮影を加えた僕の作品は、誌上で11ページもの特集を組まれました。
更には写真に添える文章まで任されるという、新人カメラマンにとっては破格の扱いを受けることができました。
さすがに、公共の媒体には出せないような過激な写真は掲載されませんでしたが、それでも当時としては十分センセーショナルな題材だったのではないかと思っています。

多少は問い合わせがあるだろうと予想していましたが、やはり当時人気絶頂の全国誌だけに、その影響力たるや凄まじいものがありました。
本の発売直後にはTVの深夜番組で有名女優と対談をしたり、何を勘違いされたかアイドルのグラビアを依頼されたりと、それまで経験した事のない種類の仕事が、続々と舞い込んで来たのです。
予想外の出来事に当惑しつつも、もうこれで好きな写真だけで生活できる、辛い肉体労働とはおさらばだと、僕は期待に胸を膨らませていました。

しかしと言うより案の定と言うべきか、現実はそんなに甘くはありませんでした。
確かに僕の写真は一時的に巷の注目を集めたのかも知れませんが、世間から見れば過激な情報は他に幾らでもあり、アングラロックの写真を撮ったカメラマンやその思いにまで関心が及ばなかったのも、至極当然のことでした。
それよりも華々しいデビューがかえって仇になり、この新人カメラマンに対しある種マイナーなイメージを定着させてしまった面は否めませんでした。
お試し期間が過ぎてしまうと、潮が引くように仕事の依頼は無くなって行きました。
生活のためにやむなく続けていたバイト先で、仲間や親方にセンセセンセとからかわれているうちに、 結局僕はそれまでの生活に戻ってしまっていました。

所詮こんなものだろうと自分の中では納得しつつも、1度垣間見てしまった華やかな世界の残像は、ずっと脳裏に焼き付いたままでした。
あれほど撮りまくっていたアングラロックに対する熱意も、自分の中ではすっかり冷めてしまっていました。
数多くのミュージシャン達を何不自由なく撮れ、望みうる最高の形で世間にお披露目できたという自負心とは裏腹に、その頃のアングラシーンのあまりに過激になり過ぎてしまったパフォーマンスに対して、僕の中の音楽観がNG信号を発していました。

もはや音楽を映像化する行為自体に興味が移ってしまい、アンダーグラウンドの世界から表舞台に飛び出してみたいと考えるようになっていた僕でしたが、今更他の出版社に売り込みに行くエネルギーは残っていませんでした。

それからしばらくは、のんべんだらりとした生活が続きました。
そして掲載から1年近く経過したある日の午後、自宅アパートに突然1本の電話がかかってきたのです。

『アノ〜、イゼン シャガクヲミタモノデスケド〜 、、』


今頃かよ!と驚きながらも、内心の動揺を見透かされないように


『あ〜 はい〜 』と、少々勿体ぶって答えました。


『アノシャシン スゴカッタネ〜! ヨカッタヨ スゴク!』


『あ〜 ど〜も〜 、』


『ヨケレバ、イチドアエナイカナ〜?』


妙に馴れ馴れしい口調でしたが、特に悪い印象は受けなかったので、


『いいですよ〜! 何を撮るんですか〜?』 フレンドリーに答えてみました。


一瞬の間があり、電話の主は続けました。


『ビショウネンヌード ナンダケド 、、』


『びっ! 、、、』


久しぶりに頭の中が真っ白になった僕でした。



(つづく)









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夢と現実+
小学館写楽編集部は、僕の想像を遥かに超える広さで、数えきれない程のデスクの間を、沢山のスタッフ達が慌ただしく飛び回っていました。
電話で面会の約束を取り付けていたにも関わらず、受付らしきものが見当たらないため、しばらくは入り口で立ちすくんでいた僕でしたが、思い切って精一杯の声を出し、近くのスタッフに用件を告げました。
数分後やってきた男性は、いかにも心此処にあらずといった感じで、僕を応接コーナーらしき場所へと案内してくれました。

時折周りのスタッフに指示を出しながら、
『とりあえず見せて』と思い出したように彼は言いました。
そこで僕は初めて、応接テーブルだと思っていたのが、実は巨大なライトテーブルだと気づいたのです。
何から何までスケールが違う光景にすっかり意気消沈していた僕は、やっぱり来るんじゃなかったと本気で後悔していました。

『で、どういう写真なの?』
再度言われた僕は、怖ず怖ずとポジの束を差し出しました。

『マウントしてないんだ』
冷たいリアクションに、完全に固まってしまいました。

無言のままルーペを取り出した彼は、ものすごいスピードで写真をチェックし出しました。

ス〜ス〜っと滑るように、ポジの束を片端から見てゆきます。
これがプロの現場ってものかと感心しながら、僕はその姿をぼんやり眺めていました。
あれだけ試行錯誤を重ねた作品達が、ほんの数秒で見終わられてしまうという厳しい現実に、寂しさを感じる余裕もありませんでした。
それよりも、これだけ忙しい人達の邪魔をしている自分に、罪悪感すら感じ始めていました。
たとえ一度きりだとしても、このような第一線の現場の空気を吸えただけで十分満足でした。
また明日からバイトで頑張ろう。
急に仲間達が恋しくなってきました。

『ありがとうございました。また出直してきます。』

そう言いかけた時、彼の動きのスピードが少しずつ落ちてきたような気がしました。
見終わった写真にまた戻ったり、1枚の写真でしばらく止まったり、(気のせいか)小さなため息をついたりしています。
そして勢い良く顔を上げた彼は、

『凄いね〜コレッ!こんな連中が本当にいるんだ!!』

と、初めて僕の目を見て、そう言ったのです。

思いがけない言葉に、一瞬頭が真っ白になりましたが、

『まだ沢山いますけど、、、』

そう答えるのが精一杯でした。

『もっと撮って来てよ!凄いよコレ!!』

まるで絵に描いたような展開に、もはや返す言葉もありませんでした。
思考停止状態のまま、とりあえずこの場を立ち去りたくなった僕は、挨拶もそこそこに写真の束を抱えて立ち上がりました。

『また出直してきます!』

つい今しがた口にしようとしていた台詞が、僕を現実に戻してくれました。
言いようのない感覚に浸りながら編集部を出ようとした僕を、彼が呼び止めました。

『ちょっと待って! これ持って行きなよ!!』

『助かるでしょ!』

はじめてニヤッと笑ったN氏が差し出したのは、山盛りのKodak20本フィルムパックでした。

『現像もうちの名前で出せばタダだからさ〜』

ネタもカメラマンもアングラ丸出しだったのでしょう。
キャパを完全に超えた展開に、ほとんど泣き出しそうになっていた僕でありました。


(つづく)





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