現実と夢+
これじゃラチが明かないと感じた僕は、プロカメラマン(?)としての虚栄心を捨て、(本来のペンキ屋のアンチャンとして)ざっくばらんに彼らと会話を始めてみました。


『何で応募してきたの?』  『カノジョガ カッテニヤッタンスヨ〜』

『撮影いやじゃなかったの?』  『イヤニキマッテルジャナイスカ〜!』

『女の子も男の裸見て興奮すんのかな?』  『スル〜 ゼッタイシマスヨ〜』

『怖いね〜』  『ムッチャ コワイッスヨ〜!』


そんな他愛無い会話を交わしながら撮影を進めるうちに、こわばっていた彼らの表情が徐々に和らぎ始め、美少年の名にふさわしいその素顔が垣間見えてきました。
ボーイフレンドを推薦してきたギャルらの気持ちが、僕にも少しわかるような気もしました。
そのうちに彼らもシャッター音に反応して、まんざらでもない表情で自らポーズを変えるまでになったではありませんか。
つい先ほど前までギクシャクしていた現場が、あっという間に明るく創造的に変化して行きました。

無意識のうちに、カメラマンはこうあるべきだという安易なプロ意識が芽生えていたのに、そのとき気づきました。
違う違うと思いながらシャッターを切っているのですから、撮られる側が緊張するのは当然のことでしょう。
自分の波長を相手に強要しているうちは決して良い結果は生まれないという、テクニカルではない大切な基本を、ギリギリの現場で学習することができたのです。
相手のバイブレーションと自分のそれを合わせる事からすべてが始まるという、写真以外にも共通するもの作りの根源的な問題でもありました。

それまで(相手とのコミュニケーションの要らない)ステージ撮影の経験しか無かった僕にとって、それはそれは新鮮な驚きでした。
こちらの気分次第で被写体の表情がこうも違うものかと、空恐ろしい気もしました。


『オツカレッシタ〜ッ!』  『タノシカッタッス!」 

『クセニナンジャナイヨ〜!』  『ワカンナイッス〜!』


そんなこんなで何とか無事に撮影を終え、懇意になったO氏とはその後も長年に渡り、様々な仕事をご一緒させてもらうこととなりました。

出来映えはともかく、写真には技術だけではなくカメラマンの人間性が映り込むものだという、この日の現場が教えてくれたものはとても大きかったと、今更ながらシミジミ感じているところです。


(つづく)




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現実と夢
調子の良い電話の主は、少女向け月刊誌【ポップティーン】の編集者O氏でした。
後から知ったのですが、その本は過激な内容が国会で取り上げられるような、出版界における最もアバンギャルドな雑誌だったのです。
僕のようなカメラマンにお声がかかったのも当然のことでした。
それにしても、このヌード撮影に関してはさすがに世間体もあり正直迷いましたが、『何でも経験!』と囁く真面目な方の僕が勝り、とにかく彼に会って話を聞いてみることにしました。

目の前に現れたO氏は相変わらず軽い口調でしたが、目をそらさずに話をする好人物でした。

『普通にキレイキレイに撮れるカメラマンは、いくらでもいるのよ。』

彼は熱っぽく語りました。

『君の写真はちょっと違う。 何かあるよ!』

と、嬉しいことを言ってくれます。

結局そうやってまんまとおだてられ、僕の職業カメラマンとしてのスタートは怪しげな雑誌の怪しげな企画で船出を迎える事になったのでした。

彼の話によると、この企画は【ポップティーン】の読者から彼氏や知り合いを募集し、自然の中や部屋で彼らのヌード写真を撮り、それを雑誌の巻頭グラビアで大特集するというものでした。
さすが全国のPTAを敵に回すだけあり、普通の女の子雑誌では手を出さないような危ない橋を堂々と渡っていました。
裸の男達にはもう十分慣れていましたし、今度は襲いかかってこられない分楽だろうと、半ば開き直りの気分で仕事を引き受ける事にしました。

撮影当日、ロケ現場にやってきた素人モデル達の表情は硬く、どこから見ても美少年の形容詞は浮かんで来ませんでした。
ヘアメイクさんにいじられた後もどこか不自然で、どちらかと言えば2流のオカマちゃんに近い状態でした。
当然その動きはぎこちなく、撮影は苦戦が予想されました。
内心当惑しながらも、僕もプロ(?)としての面目を保たなくてはなりません。
さも慣れたフリであれこれ指示を出してみました。

『上目遣いにレンズを見て〜』 『もう少し右〜 じゃなくて左〜 、、やっぱ正面〜 、、、 』

彼らをどこからどう狙っても、どのモデルも明らかにに凍り付いています。
無駄に時間とフィルムだけが消費されていきました。

それまでモデル撮影はほとんど経験のない僕には、ファッションンカメラマンの助手時代の経験が持ち技のすべてでした。
ライティングはそれなりのつもりでしたが、今回はどうも勝手が違いました。
いつどこでシャッターを押してもさまになるプロの外人モデルと、そこら辺のアンチャンを同じ土俵に上げる方が悪いに決まっています。
そんな環境で納得のゆくショットが撮れるはずもなく、このままではエログロの世界再現かという、危ない瀬戸際に立たされてしまいました。
遠くで見守る編集者も、さすがに心配そうにこちらの様子をうかがっています。

結局のところ、化粧をするのも初めてなら(多分)、銭湯以外の場所で裸になったこともない連中相手に妖艶な世界を演出することなど、女性ヌードすら撮った経験もない僕にとっては暴挙に等しい行為だったわけです。
出だし早々冷や汗をかく、似非プロカメラマンなのでした。



(つづく)




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