表層と本質++
大変に失礼な初対面の挨拶にもかかわらず、キヨシロー氏はその後も僕に対しごく自然に接してくれました。

『今回のツアーについて回りますので、よろしくお願いします!』

と頭を下げると、

『おう〜! よろしく頼むゼ、若いの!!』

と、素朴な笑顔で返してくれながらも、言葉の端が微妙にロックしていたのが印象的でした。

振り返ってみると、当時の彼らはレコーディングやツアーの合間に、殺到するメディアの取材にも追われ、多忙を極めていました。
元々自由人が集結したようなバンドでしたから、急激な人気の高まりに伴う環境の変化に、肉体的精神的に相当にきつい頃だったろうと想像されます。
取材相手の顔も知らないような中途半端な人間を無視して、さっさとサングラスをかけて寝てしまったとしても、責める理由はどこにもありませんでした。

ところが彼は、そんな無礼な若造にもまるで古くからの知り合いのように、自然に振る舞ってくれたのです。
退屈そうに雑誌をパラパラめくりながら、時折カメラを向ける僕にわざわざひょうきんな表情を作り

『ど〜 いい写真撮れた?』

と、やさしく声までかけてくれるのでした。


『いいな〜 この人!』


僕はいっぺんに彼の事を好きになってしまいました。


のんびりした田園風景の中を迎えのバスはひた走り、たどり着いたとある公民館の楽屋で僕がまず驚かされたのが、メンバーのために用意された大量のステージ衣装でした。
そこはまるで古着屋かと見間違える程の、尋常ではない服やアクセサリーで溢れ返っていました。
それらは巨大なトランクにギューギューに押し込められていて、メンバーが寄ってたかって漁っていくものですから、さながら服のバーゲン会場のような有様になっていました。
どうやらスタイリストが東京で用意した物を、メンバー各々好き勝手に選んでいるようでした。
リハーサルを終えたメンバー達は早々と服のコーディネートを終えていましたが、キヨシロー氏は時間をかけ無差別に(僕にはそう見えた)目につくものを手当たりしだいに身にまとってゆくのです。
元々華奢な人なのですが、幾重にも重ね着をしてゆくその姿は、まるでカラフルな蓑虫(みのむし)を連想させました。
そしてその組み合わせの独特な色彩感覚はまさに圧倒的で、『スタイリストさんいなくて本当に大丈夫なのかな?』とこちらが余計な心配をしたくなるほどでした。

黙々と化粧を施す彼の後ろ姿を眺めながら、僕の中のキヨシロー像はかなり混乱していました。
それまで写真やレコードからイメージしていたロックボーカリストと、機内で隣り合わせていたどちらかといえば地味な好人物とのギャップが、どうしても埋められなかったからです。

それまで僕が抱いていたRCサクセションのイメージは、飾らない日本語を使いながらも日常の風景を魔法のように非日常に昇華させてしまう、唯一無二の前衛的なロックバンドでした。
きっと彼らは普段から常人離れしたオーラを発しているものと、勝手に決めつけていたのです。
しかし実際はメンバー同士会話を交わす風でも無く、静かに本を開いたり楽器をつま弾いたりして時間をつぶしているようです。
午後の気怠い日差しの差し込む広い楽屋に、誰かのラジカセから流れるR&Bの曲が聞こえていなかったなら、そこにいる人達は人気絶頂のロックバンドおろか、もしかしたらミュージシャンにも見えなかったかも知れません。
初の音楽雑誌のページを刹那的な世界で切り取ろうと張り切っていただけに、目の前に広がる牧歌的な風景に僕はしばし唖然としてしまいました。

しかしながら、この雰囲気に僕が失望したのかというとまったく逆で、どちらかというとこちらの方が、はるかに性に合っていました。
アーティストとしての凄みよりも、(今でもあまり変わっていませんが)人間としての魅力の方が僕には大事に思えたのです。

そうなると、何故かメンバーの事をずっと昔から知っているような気がしてきて、これまでにない優しい気持ちでシャッターが切れるようになりました。
それは僕がアンダーグラウンドのミュージシャン達を撮っているときには覚えのない、どちらかといえば近親者に感じる感情に近いものでした。

そうこうしているうちに本番の時間を迎えた僕は、セルフメイクを終えたメンバー達のスナップを手早く撮り終えると、そっと楽屋を後にしました。








息を殺して観客席とステージの間にしゃがみ込み、急いで機材の最終チェックを終えた僕は、これから展開されるであろうRCサクセションのパフォーマンスに思いを馳せました。
思えばその日生まれて初めて、僕はステージ裏の素のアーティストの姿を見る事ができたのでした。
あの大人しそうな人達がどう変身するのか、自分は本当に感動できるのだろうか、そんな自分の中で埋められないギャップを、彼らがどうやって壊してくれるのかと、期待で胸が躍っていました。

暗闇でひとりニヤニヤしていた僕は、その時ただならぬ気配に思わず場内を振り返りました。

それまで通っていた場末のライブハウスとは似ても似つかぬ豪華な作りの会場は、その雰囲気に不釣り合いの観客達でぎっしり埋め尽くされていました。
若い男女達は、それぞれ個性的なファッションに身を包み、時折顔をゆがめてはメンバーの名前を声だかに叫び、コンサートの開始を今か今かと待ちわびていました。

その殺気立った雰囲気は、かつて暗黒大陸じゃがたらのライブで感じたのと同じように、僕の背筋を一瞬凍らせました。
何かに餓え、何かに怯えているような、喜んでいるような、泣いているような、
彼らの常軌を逸した血走った目は、あの日(じゃがたら)のライブで目撃したそれと同じものでした。

ただひとつ、それがまだライブ前だということを除けば、、、



それに僕が気づいた瞬間、場内の明かりが落とされました。


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