番外編(その1)
突然ですが、現在進行形の話をしたいと思います。
元々このブログは、僕がこの世界に入るきっかけや、その後影響を受けた様々な出来事について書き留めておこうと、軽い気持ちで始めたものです。

ところが、おぼろげな記憶を頼りにいざ書き出してみたところ、忘れかけていた日々のディテールが、あれやこれや目の前に蘇ってきてしまい、簡単にその前を通過することが出来なくなってしまいました。
基本的に時系列に辿ってゆかないことには、支離滅裂な僕の仕事の説明が難しくなってしまいます。
誰に頼まれて書いている訳でもないので、気の向くままのんびりやろうと考えていたのですが、このままでは現在の状況に追いつくのがいつになるのやら、自分でも予想がつかなくなってきました。
そんなわけで、時折(番外編)と称し鮮度の良い話題も提供してみようと考えた次第です。
そしてその記念すべき第1回は、【ペ・ヨンジュン氏】のお仕事の話です。

自分の事を客観的に捉えるのは、誰しも難しいところなのでしょうが、僕がロックの世界で一途に生きて来たと思っている人は案外多いようです。
確かにこのブログでもお分かりのように、血みどろのアングラミュージシャンやRCサクセションのような、極めてユニークなアーティスト達との出会いで、その後の人生が決定づけられた事は否定のしようがありません。
しかし、僕がいかに様々なアーティストと仕事をさせて頂いてきたことか。
  

ーーーーー


『オナガさん、3Dの企画があるんですけど』

その電話で今回の話は始まりました。

すでにホームページで披露している通り、僕は立体映像に目がありません。


『いいね〜 やる! やる!!』


と即答していました。

ところが、それは何やら大物アーティストの極秘プロジェクトらしく、実際に競合の結果が知らされたのは、それから半年近くも経った頃でした。


『実は、先日の件はペ・ヨンジュンのイベント収録なんですけど、、』


プロデューサーからの電話に、一瞬たじろいでしまいました。
ヨン様と言えば当然『冬ソナ』というか、ひたすらそれだけしか知らない世間の狭い僕であります。

聞けば、このイベントで彼は歌うでもなく、特に芝居をするでもない模様。
『そんなんで2日間も持つのかな』とは思いつつ打ち合わせに参じた僕は、どちらかと言えば最新の映像機材の方に興味津々なのでありました。

ところが、ここで1つ問題が生じました。
巷で3D元年と盛り上がっている割には、収録まわりの機材の数がまったく追いついていないようなのです。
これまで数多くのライブビデオを演出させて貰っていた僕は、いつの間にか贅沢病を患っていたようで、大きな収録となると20台30台のカメラ台数は当たり前、時には百数十台のカメラを入れた事もある、救いようの無いオタクディレクターと化していたのでした。
それが今回は何と、3Dカメラが6台だとの事。
6台もあるじゃないかとのお声が聞こえてきそうですが、小さなライブハウスならともかく、東京ドームでの3時間近くのイベント2日分を、お客さんを飽きさせないように編集するわけですから、普通に考えればカメラがいくらあっても足らないわけです。

これは初心に帰れってことかなと頭を切り替えた僕は、通常のダイナミックな収録方法をやめて、可能な限りアーティストの近くにカメラを置かせてもらえるようにしたのです。
それぞれの観客が、いつでもペ・ヨンジュン氏に張り付いているような、(たとえは悪いですが)ある種のストーカー気分を味わってくれればと思ったのです。

分厚い資料にはろくに目も通さないまま(いつもの事でスミマセン、、)本番当日を迎えた僕は、中継車の中で初めてペ・ヨンジュン氏を目撃することとなりました。
直前に入院騒ぎがあったせいか韓国側のガードが極端に固く、事前の顔合わせの機会もないままの収録になってしまいました。
この時点においては、彼に対する僕の思い入れは0に近いものだったと記憶しています。
なぜなら、それまで僕が携わってきたこの種のプロジェクトでは、必ずアーティストと直接目を合わせながら打ち合わせを行い、その人がどんな人物かを僕の中で咀嚼(そしゃく)した後に、収録を行ってきたからでした。
会話も交わさない相手をどう表現したらいいのか、自分としては初めての経験でした。

カメラを通して見る彼は意外に(失礼!)男らしく、例の微笑みもほとんど見られませんでした。
体調がまだ思わしくないのか、どちらかといえば愛想がないようにも感じられました。
リハーサルもそこそこに引き上げる彼をモニター越しに見送りながら、深いため息をついた僕でありました。
このままただの記録係に徹するしかないのかと、自分の中のモヤモヤは大きくなるばかりでした。

本番直前、会場内の空気を確かめたくなった僕は、東京ドームの長い通路を独り歩きながら、まわりの空気が徐々に変わってくるのを感じていました。
微かに聞こえて来る観客のざわめきからは、何とも言えない本番前のザワザワした緊張感が伝わって来ました。
一瞬、そこがいつも慣れ親しんだロックコンサート会場のような気がしてしまいました。
そして薄暗い廊下を抜け出た瞬間、僕は初めて目にする光景に思わず唸ってしまいました。

そこには、買ったばかりのグッズを嬉しそうに眺めたり、携帯片手にジャンプしながら知り合いに手を振ったり、まるでうら若き乙女のようにウキウキしている様子のオバサマ達で、立錐の余地もない状況になっていたのです。
これだけの数(約5万人)の女性達が、たった一人の男のために日本中から集まっているのですから、それはもうもの凄いパワーで満たされていました。
その圧倒的なエネルギーに押しつぶされそうになった僕は、

『これは、えらいことになった』

と、今更のように思うのでありました。


(つづく)




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表層と本質+++

地を這うようなベースの音が、やがて地鳴りのようにホール中に響き渡り、
悪戯小僧のようなギターの音色がじゃれるように絡みつき、
高まる心臓の鼓動のようなドラムのリズムが仲間に加わると、
RCのオープニング曲(よォーこそ)のお膳立ては整いました。

100年間禁欲していた若僧どもが、一斉にシャバに放たれたような凄まじい情念の渦で、あっという間に場内は興奮の坩堝と化してしまいました。
観客達は、そのひしゃげた腕を(まるで痙攣しているかのように)バンドに向かって必死になって伸ばしています。
それぞれの指先から激しくほとばしるエネルギーが、まるで1本の図太いプラズマになってステージに向かって放電されているように見えました。

(バンドと観客の双方の音圧で正気を失ってしまいそうな状況の中、僕がかろうじて冷静さを保っていられたのは、必死の形相で客を押しとどめている警備員の姿が目に入ったからでした。)

やがてすべての音が螺旋状にねっとりと交わり、1匹の大蛇のようにその鎌首をもたげた瞬間、そこへ花びらのように舞い込んで来たのが、キヨシローでした。

しゃがれたような、それでいて伸びのある、生で聞くと一段と迫力のある不思議な歌声が、最後の一撃を僕にくれました。



『 よく来てくれた〜! このコンサートに〜 』



『 よく来てくれた〜! こんな夜に〜 』



『 よく来てくれた〜! わざわざここまで〜 』



『 よく来てくれた〜!! よォ〜こそ〜!!! 』



これほどストレートなオープニング曲があったでしょうか?
何の飾りも無くそれでいて鮮烈なメッセージが、僕の脳みそ一気にをシェイクしてくれました。
けっして大げさな表現でなく、僕はその時全身が痺れる程の感動を受けたのです。

10分前に楽屋で目にしていたのとは、まったく別の男達がそこにはいました。
キヨシローのしなやかに歌い踊るその姿は、まさに蝶のように華麗で、流れるような動きにまといつく極彩色の衣装は、まるでベタ(闘魚)のヒレを連想させました。
その(完璧な)姿に圧倒された僕は、おろかにも衣装の色使いやコーディネートが気になっていたことが、恥ずかしく思えて仕方ありませんでした。
あの大人しそうなメンバー達も、楽屋とは打って変わり自信に満ちた表情で観客席をゆったりと見渡し、優雅に演奏を楽しんでいます。

場内の誰もが、彼らRCサクセションに合わせて歌い踊っていました。
まさか1曲目からこんな状況になろうとは、予想外の展開に僕が戸惑ったのもわずかの間だけで、泣き叫ぶ観客の波にもまれているうちに、僕はファインダーから目を離し、カメラを胸元に抱えたままノーファインダーで撮り始めていました。
目の前のこの光景を、フィルムだけでなく自分の網膜にも焼き付けたくなったからでした。

僕は生まれて初めて、歌いながらシャッターを切りました。
フィルム交換の最中も、ステージから目を離さないまま歌っていました。
会場の中の皆と自分が、完全に溶け合っている実感がありました。

そんな風に写真を撮ったのは、後にも先にもこの夜だけのことでした。


(つづく)





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