しょうもない話 +
場内の集中力が全て僕に注がれているのが、金縛り状態の中でもハッキリ分かりました。
これまで、多少は修羅場を経験してきた僕ですが、今回ばかりは完全に動揺していました。
何せ、つい15秒前まで他人様をサカナに大笑いしていたのが、一瞬で立場が入れ替わってしまったのですから。
この状況はある意味、じゃがたらのライブ以上です。(ブログ09年8月参照)

傍観者然と笑い転げている女房が、うっすら目に入りました。
目の前の座席からは、息子2人がキラキラした笑顔でこちらを振り返っています。
多分彼らの明日の学校の話題は、これで決まったに違いありません。
100%絶体絶命でした。

おごそかに、生贄の儀式が始まりました。

不意に検問を受けた時の警察官のような丁寧さで、カメ先生は尋ねてきます。

「その透明なゴーグルのカメ、お名前は?」

子供らの手前、偽名を使う訳にもいかず(使う必要もないのだが)、
元気良過ぎるのも気恥ずかしく、あまり照れるのも何だかなと考えた僕は、精いっぱい神妙な態度で答えました。

「・オナガ・・・ユタカデス・・」


「みんな〜 ゆたかに拍手〜」

(ウォ〜〜!) 『・・ちょっと嬉しい・・・』


「な〜 ゆたか〜!」 「さっきこんな物を拾ったんだけど〜」

ヤツが岩場の影から取り出したものは、事もあろうに派手な女性水着の上部分でした。

艶かしく揺らめくそれを口にくわえながら、ヤツはさらに尋ねます。


「ゆたか〜 これが何だかわかるかな〜?」

『・・オイッ! ここを何処だと思ってるんだ?』


オジサンの心の叫び声は、爬虫類に届くはずもありません。

先程までの健全な話題から一転したことで、場内の大人たちはぐっと息を潜めて、こちらの様子をうかがっています。
知ってか知らずか、幼稚園児の息子までニヤついている始末です。


「・ビ・・ビキニ・デス・・・」

あちらこちらから、失笑が漏れてきます。

ありきたりの答えが気にいらなかったのか、先生のS度指数が上がります。


「ふ〜ん で、これは何をするものだ〜?」


『・・オラ〜ッ!! ここは、泣く子の黙るおとぎの国ではなかったのか〜?』

完全に追い詰められてしまいました。

ここが飲み屋なら、そりゃあ面白い切り返しも出来ましょう。
周りの大人たちを楽しませてあげたいのは山々ですが、数メートル先の息子達の眼の前で、コツコツ積み上げてきた父の権威を失墜させる訳にはいかないのです。


「・ヒ・・・日焼けをしないようにするものです」

場内がドッと受けました。

『やった〜!!』

と、喜んだのもつかの間


「そうか〜 じゃあ ゆたかも、これをするのか〜?」

『・・・ 』


善良な小市民が突然このような窮地に陥れられるとは、世の中一寸先は闇というのは本当でした。


「・ボッ・・・ボクハ・・日焼けをしてもいいので・・・・・」


『・・ハッ・・・ハズシタ・・・』


(ワ〜ッ!!)

気の抜けたパンチしか返せず、赤い顔(多分)をした僕を、場内の同士たちは暖かい笑い声と拍手で包み込んでくれました。
古い例えばかりで恐縮ですが、この時ばかりは人の情けが身に染みました。

我々の団結心に心動かされたのか、カメ先生、ようやく年老いた仔羊を解放してくれたのでした。


「みんな〜! ゆたかに拍手〜!!」

(ウォ〜〜!!)


「おまえら みんな サイコ〜だ〜!!」

(ウォ〜〜〜!!!)


ドヤドヤと、会場を後にする観客達の渦の中で、「楽しかったね〜」と抱きつく息子を担ぎながら、脱力状態で歩く僕の後方から、「ゆたか〜」「ゆたか〜」とカメ先生の幾つもの声色が聞こえてきました。

この日は、初っ端からこんな大事件に巻き込まれてしまい、すっかり調子の狂ってしまった僕でしたが、その日一日不思議に腹の立たなかったのは事実でした。

下の子を肩車しながら、最後の水上ショーを人混み越しに眺め、僕は力無く呟くのでした。


『・・怖るべし・・オリエンタルランド!・・・』


(おわり)
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しょうもない話
先日、数年ぶりに家族とディズニーシーに行って来ました。
僕以外の人間には恒例行事のようですが、行列で待つことが苦手な身には、1時間以上も同じ場所に立っていることなぞ、拷問以外の何ものでもなく、せっかくの楽しい雰囲気を壊さないため、今までは自主規制していたのです。

しかしよく考えてみると、家族そろって遊園地に出かけるチャンスなぞ、この先何年も続くことではありません。
可愛い子らの喜ぶ顔を見られるのもあと僅かかと、思い切って重い腰を上げたのでした。

上の子の代休を利用して、平日の月曜に狙いを定めました。
天気予報では天候も芳しくなく、混雑を避けたい此方には絶好のコンディションでした。
朝早く家を出発、高速を快調に飛ばし、1時間余りで駐車場に無事到着!
この調子なら、少しはのんびりとリゾート気分を味わえるだろうと、さっそうと入り口に向かった途端、僕は現実の厳しさに目を覚まされました。

そこは既にお祭り状態で、何処から湧いてきたのか?(失礼)
派手に着飾った家族連れやカップルで、ぎっしり埋め尽くされていたのです。
ある程度は予想していたのですが、今日は雨降りの月曜日なのですよ!
お前ら仕事はどうした? 学校は行かなくていいのか?
と、自分らのことは棚に上げつい毒づいてしまう、了見の狭い私デス。ハイ!

そんな僕のことなど眼中にない家族は、「やっぱり今日は人が少ないねー」などと余裕の表情です。
怖るべしオリエンタルランド、ここまで人心を洗脳できるとは、半ば感心しながら大人しく開場を待つしかありませんでした。

待つことしばし、ようやく開いた入場口からお目当てのアトラクション目指して、人々が動き出します。
あからさまではないにしろ、前をゆく人を1人でも追い抜こうと、そこには無言の圧力が充満しています。
遊園地で何が嫌いかと問われれば、僕はこの瞬間が一番嫌いだと即答します。

そりゃね。急ぐ気持ちも分かります。
ファストパスが欲しいのは僕も同じです。
でもさ。
世間でさんざっぱら競争にさらされてんでしょ。こういう所に来てまで弱い者同士争ってどうするよ!
急ぐ中にも、もう少し余裕ってもんが欲しいじゃないの。
なんて独り憤慨しているうちに、家族に置いてけぼりを喰らいそうになった僕は、やがて烏合の衆と仲良く集団疎開をするのでありました。

先程までの屁理屈も何処へやら、首尾よくお目当てのファストパスを手に入れた我々は、時間つぶしにそこいらを散策することにしました。
そこでちょうど目についたのが、新作のアトラクションでした。
家族の話によると、ここは最近オープンしたばかりの、カメとお話をする施設のようです。
(カメと話して何が面白い? などとは、口がさけても言ってはいけません。)
スムーズに入場できて大喜びの子らを見て、父は初めてホッと一息入れたのでした。

場内を見回したところ、そこは定員5〜60名のこじんまりとした空間で、正面には大きなスクリーンが設置されています。
「どうせ今流行りの3Dで驚かせるつもりなんだろうが、こちとらちょっとやそっとの立体では満足できない体になっちまったんでい!」
と、心の中で呟きます。

やがて場内が暗くなると、スクリーンの奥からCGのカメがこちらに向かって泳いで来ました。
「おや? これは立体じゃないな。そう言えばメガネも渡されなかったし、画面もレンチキュラーじゃないようだし、、、」
と、つまらない職業意識が首をもたげます。

「何を今更2D、客散らしの為に姑息な施設でも作ったんか?」
早くも斜に構えた僕をよそに、お客さん達は皆大喜びです。
「はてな?」
このカメ、確かにどこかで見覚えがあります。
そう、こいつはあの有名なファインディング・ニモに登場するキャラクター(名前は忘れた)ではありませんか。
それくらいのことは、ギリギリ僕にもわかります。
「で? それがどうした?」
意地の悪い中年ディレクターは、ついショーの演出が気になってしまうのでした。

観客を見渡すように不敵に泳ぎ回る彼の姿は、表情豊かで本当に生きているように思えてきます。
言葉巧みに、我々の片手や両手を上げさせ、駄目出しをしながら盛り上げてゆく様は、軽妙なナレーションとあいまって、TVでお馴染みの老練な司会者を連装させました。
そしてものの5分もしない内に、大人も子供も同じように大笑いしながら、カメ先生の言いなりになっていました。
けれども、片手や両手を上げて大笑いしている2人の息子の後ろ姿を眺めながら、未だ冷静な父でした。

観客達の生のリアクションを、プログラムされた映像に合わせるには、相当なテクニックが必要なはずです。
「さすがに、良く練られてるな」
その出来栄えに、僕はいつの間にか心底感心してしまっていたのですが、
カメ先生がお客と会話を交わし始めた辺りから、少々府に落ちない部分が出てきたのです。

「前から3列目の白いシャツを着たカメ、お名前は?」

「OO X男です」

「それでは X男、君はどこから来たのかな?」

「日立市からです」

「おーヒタチシ!サイコー!! ・・・どこだか分からないけど」
(場内大受け)

照れるX男氏とカメ先生との面白すぎるやり取りに、観客席にはいつの間にか一種の連帯感すら生まれていました。

「今日は良く来てくれた。みんなX男に拍手」
(ウォー)

「お前らサイコー!」
(ウォーーー!!!)

カメの生贄にされた、可哀想(でも楽しそう)な若いお父さんを眺めながら、

「あれっ! 今の人サクラか?」
と、ぼくは思わず疑ってしまいました。
何故なら、リアルタイムで自然にここまで会話とCGを成立させるのは、技術的に不可能に近いと思ったからです。
目を凝らして画面を観察しているのですが、カメの表情やリアクションは豊かで生々しく、CG映像にタイムラグは微塵も見られません。
簡単なやり取りならつじつま合わせも出来るでしょうが、今の様な掛け合いはいくらなんでも???

そして突然、運命の時が訪れました。

「この中で泳げるやつはいるかー?」

「ハーイ!!」

皆につられ、つい手を上げてしまいました。

「ハイッ! そこの透明なゴーグルを付けたカメ!」


・・・僕でした。



(つづく)





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