生かされている実感
タイトルのような言葉を客観的に眺めてみると、どこか啓発セミナー的な香りが漂ってきますが、いえいえ決してそのような大仰なものではなく、僕のささやかな実体験の話であります。
いつの頃だったか正確な時は忘れてしまいましたが、ある撮影でスタッフ共々竹富島を訪れたことがありました。
僕は沖縄県出身なので、もちろん見知った場所ではありましたが、そこは普段およそ遊びに行こうとは思わないような辺境の地でした。
リゾート一辺倒の本島とは異なり、ここは数件の民宿が軒を連ねる以外に信号機一つ見られない、ほとんどがお年寄り所帯の静かな島です。(多分今でもほとんど変わっていないことでしょう)
夕暮れどきになると、あちこちの軒先からおじいちゃんの奏でる三線の調べが聴こえてくる、まるで絵に描いた桃源郷のようなところでした。 
素朴な島の人々の人情は、都会暮らしで疲弊してしまった我々の心を、優しく揉みほぐしてくれました。
とはいえ、僕らスタッフが数日もしないうちに退屈になってきたのは、その若さゆえの悲しさでしょうか。

小さな島にはいわゆる娯楽施設等は皆無で、普段の不摂生のため容易に寝付けない我々は、その晩やむなく真夜中のビーチに足を運んだのです。
夜目にも白い砂浜には、ときおり打ち寄せる波の音だけが、昼間以上に快活に又心地良く響いていました。
缶ビール片手に浜辺に寝そべるなり、僕らは頭上に広がる絶景に忽ち魅せられてしまいました。
雲のように幾重にも連なる銀河の群れは、まさに星雲と呼ぶに相応しいものでした。
天球をぼんやり眺めている我々の視界には、数十秒に一回は流れ星が入り込んでくるのです。
そこでは、いちいち願い事を唱えていられない程のスペクタクルショーが、延々と繰り広げられていました。
皆一様に押し黙り、どのような芸術からも得られないであろう、圧倒的な感動に浸っていました。
僕は(幸せなことに)仕事柄、過去に幾度かこのような光景を目撃したことがあるのですが、ここでは一つだけ決定的に違っていたことがありました。
それは、そのスケール感です。
その夜の入り江はほとんど無風状態で、まるで鏡のような海面に映し出される天上界は、水平線との境界を完全に忘れているようでした。
真上から真下まで視野の全てが星空のような超常的な環境に、僕らはまるで宇宙空間に連れていかれたかのような、神秘的な錯覚を覚えるのでした。

いつのまにか都会慣れしていた僕は、星達のことを単なる夜空のアクセサリーのように考えていたようです。
けれどもこうして大銀河に囲まれていると、この地球が無限の宇宙のちっぽけな1個の天体に過ぎないことが、ごく自然に実感させられたのです。
しばらくすると、スタッフの誰かが『泳ぐぞ〜!』と言い出すなり、裸になって銀河の海へ飛び込みました。
それが引き金となり、全員が静かな海に駆け出す姿は、まるで小学生の群れのような無邪気な景色でした。
しばらく泳いだ後、僕は仰向けで水面に浮かび、そのまま動かずにいました。
ときおり聞こえてくる仲間のはしゃぎ声が次第に遠くなり、やがて自分の心臓の鼓動が大きく意識されるに従い、僕はある不思議な現象に気づいたのです。

浮き輪なしに漂っていた僕の身体は、呼吸をするたびに浮き沈みを繰り返していたのですが、息を吐き体全体が沈みかけ、ギリギリ海水が鼻の穴に入りそうになると、自然と次の息を吸いたくなるのです。
息を吸った後は、浮力の増した身体が再び海面から浮かび上がるという具合でした。
つまり、溺れる寸前自らの呼吸によって命が救われるという構図なのです。
ただ、呼吸を意識し過ぎてしまうとそのタイミングが微妙にずれてしまい、時々塩水を飲んでしまったりもするので、心安らかにその摂理を受け入れることがポイントでした。
最初は恐る恐るその現象を確かめていた僕でしたが、慣れるに従いその面白さにどっぷりハマってしまいました。
ほの暖かい海水に身を委ねていると、まるで母親の胎内にいるような、えも言われぬ不思議な安心感を覚えるのです。 
重力を無くした状態で大銀河の中にポッカリ浮かび、自分が宇宙の真理によって生かされているような、そんな悟りを得た気分でした。

僕は普段は決して上等な人間ではありませんが、この晩だけは大宇宙の神秘を五感で受け取ることのできた、そんなプチ瞑想チックな思い出です。










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