心境の変化
この音楽映像業界のディレクター達は、まさに十人十色の経歴を持っていて、僕の知る限りにおいてもCM畑やデザイナー出身、あるいは映画カメラマンの助手だったりします。
僕はといえば元々アングラ写真家なので、それぞれの作風が違って当たり前、まさに百花繚乱のにぎやかな世界なのです。

P.V(プロモーションビデオ)というジャンルがCM(コマーシャル)や映画とは根本的に異なる理由は、その生い立ちにあります。
シングルレコードの販売促進のために作られたP.Vは、当初レコードショップ等の客寄せに使われ、折からのMTVブームにより世界中の若者を中心に支持が広がり、現在のような市民権を得るに至ったのです。
販促映像の代表格であるCMと似て非なる点は、その長さにあります。
CMが極端に短い長さ(主に15秒)に情報を凝縮するのに対し、P.Vは平均して5~6分ある楽曲の長さに合わせて作られます。
その内容は娯楽性を帯びたものがほとんどですが、作品の多くがアーティストや楽曲を引き立たせるためにあるところが、エンターテイメントの王者である映画とも大きく異なる部分です。
映画が小説だとすると、CMは俳句、P.Vは詩のようなものでしょうか。
僕のいるP.Vの世界は、CMや映画並の予算も時間も与えられない(もちろん例外あり)、ある意味中途半端な存在とも言えましょう。
しかしながら、考えようによってはこれほど面白い世界もありません。
そこにはスーツを着たお偉方の姿もなければ、子細に書き込まれた企画書もありません。(少なくとも僕の現場においては)
問われるのはディレクターの想像力のみです。
楽曲を聴いた時に感じた何かを表現しようと、僕を含めたディレクター諸氏は楽しく七転八倒するのです。

僕の過去のP.V作品は、大抵イメージ映像が主役でした。
このブログの始めの頃に書いたように、僕はヘンテコなご縁でこの世界に紛れ込みました。
アングラロックの強烈な洗礼で受けたトラウマは、今なお僕のひねくれた美感に影響を及ぼしています。
与えられた音楽作品に、誰も思いつかないような発想で新たな命を吹き込みたい。
そんな理想を追ってきた僕には、勢いイメージ先行の癖がついていたようです。
イメージ映像とは、一体何なのでしょう?
たとえば遠い記憶のようなもの、もしくは夢を見ている時の絵に近いのかも知れません。
もし、音楽に添える映像がただ歌詞をなぞっただけのものであったとしたら、それは単なるカラオケ映像になってしまいます。
”夢か現か幻か”これが僕の最も理想とする映像作りでした。

昨年の後半、とても難しい仕事の依頼を受けました。
それは、ここ何年も御一緒させて頂いている女性アーティストの新曲P.Vでした。
この曲は、そうそうたるメンバーでキャスティングされた、ある民放TVドラマのエンディングソングでもありました。
吟味され尽くしたその言葉一つ一つには、弱いものを思いやる温かな血が通っていて、しかも力強さに満ち溢れています。
この曲を最初に聴きながら、僕は1人の友人の言葉を思い出していました。
彼は最近病気のお父上を亡くされ、その追悼ビデオを作っているところでした。
そんな彼が、あるとき僕にこう話してくれたのです。

『翁長さん、家族の幸せのピークって意外と短いもんなんですよ。』

以来、その言葉が僕の頭から離れることはありませんでした。
壮大なタイアップ態勢をとられているこの曲を聴く時、おそらく大多数のリスナーはTVドラマのシーンを思い浮かべることでしょう。
しかし、そんな大きな世界とはかけ離れた、足元のささやかな幸せについて語れないものかと考えた僕は、慣れない場面設定に難儀しながらも1本の話をこさえてみました。
それまでの空想型の人間が一転、多少なりともリアリティのある表現をしてみたくなったのです。

幸いなことに、アーティストご本人に快諾してもらえたシナリオは、前作までとは違ったテイストのものになりました。

僕の撮影現場では、細かな演技指導はほとんど行いません。
撮りたい状況を字コンテや口頭で説明した後は、すべて役者さんにお任せします。
頼る術は自分の正直な感情のみで、物語が自然に見えればそれで十分なのです。
伝わってくるものが僕の求めている水準に達していればOKですし、そうでない場合はこちらの伝え方を修正するのです。
いくら綺麗な絵であっても、見ていて不自然さを感じてしまえば、それが僕自身の感情移入の妨げになってしまうからです。
要するに、僕はファインダー越しに彼らの芝居を鑑賞するだけでした。
今回、そんな素人監督に大きな力を貸してくれたのが、才能あふれる役者の皆さんでした。
僕の大雑把なシナリオに、彼らはきめ細やかな表現で応えてくれました。
以前(影の主役達)でも書いたことですが、さすが餅は餅屋です。
それぞれの深い解釈で見せてくれた世界は、僕の貧弱な想像をヒョイと飛び越え、骨格だけの体に血肉をつけ、心を入れてくれたのです。
仮編集を見たアーティストは

『骨太ですねー!』

とご満悦の様子で、1発OKを出してくれました。

『芝居って面白いな。』

井の中の蛙が外の世界を教えてもらった、とても大きな出来事でした。



興味を持たれた方は、1度ご覧ください。
(http://www.youtube.com/watch?v=ia1HWtcQLwQ&ob=av2e)








コメント(32) / トラックバック(2)カテゴリ無し
心の岩盤浴
前回登場したMASAKIさんのコンサートに行って来ました。
気持ちの萎縮してしまいそうな冷たい雨の中、すでに大勢の方々が集まっておられました。
老若男女のお客さんで満員のホールでしたが、皆さんの喜々としたご様子の訳は、主催者が振る舞っていたワインにもあったようです。
とても珍しい赤のスパークリングワインの美味しさは格別で、そこをパーティー会場のように思わせてくれた主催者の思惑に、僕もまんまとハマってしまったようです。

やがてピアノとチェロの奏者と共に現れたMASAKIさんは、いつもと変わらぬ笑みを浮かべ、静かに演奏会をスタートさせました。
リラックスした観客席に波長を合わせるかのような彼の演奏は、決してテクニックをひけらかすものではありません。
観客席を見渡しながら、たおやかに時に激しく弦を操ります。
曲の合間には、作品のタイトルやその込められた思いを、少々言葉足らずの日本語で語りかけてくれます。
僕はクラシックコンサートでは大概眠くなるのですが、ここでは不思議にそうはなりません。
あっという間に前半が終了してしまい、自分の顔に異常を感じた僕は、そこではっと我に返りました。
1時間近くずっと微笑んでいたのでしょう、表情筋が疲れていたのです。

普段一人きりの時間が多い僕は、悲しくも無表情生活者です。
ちりも積もれば何とやらで、いつのまにか小難しい男に見られるようになってしまいました。
周りを見渡すと、ワイングラスを片手に楽しそうに会話を交わす人々でごった返しています。
(恐らく)いつもは僕と同様であろう紳士方の和やかな笑顔は、ここが熱海あたりの宴会場じゃないかと錯覚させるほどでした。

後半が始まり、新たなアレンジをまとった馴染みの曲達は、僕の顔を更に弛緩してくれるのでした。
MASAKIさんの真正面に陣取っておられるご婦人方の、余にも楽しげなご様子に圧倒された僕は、それをどこかで見たような気がしてなりませんでした。
そう、ペ・ヨンジュン氏のイベントで目にした光景が、そこに再現されていたのです。
しかも、あの場では見ることの出来なかった、紳士方のご満悦のお姿まで添えて。

長年音楽の仕事に浸かりながら、こんな絵に描いたような幸せな現場には、なかなか立ち会う事は叶いませんでした。
プロなんだから上手いのは当たり前、その向こうに何を見せてくれるのかが重要なのです。
メロディーを奏でるアーティストの想いが伝わらなければ、それはただの見せ物でしかありません。
凝り固まった人々の表情と心(元は一緒)を優しく解きほぐしてくれる、そんなアーティストを僕も待ち望んでいました。

オリジナルの表情にすっかり慣れた僕は、贅沢な時間を賞味しながら、こう思っていました。

『みんなで温泉に浸かってるみたいだ。』

芸術は人を感動させる為にある。そう確信した夜でありました。

















コメント(44) / トラックバック(3)カテゴリ無し
2012年1月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

新着アーカイブ
▼意外や意外!
(2013/5/9 17:21)
▼肩の荷
(2012/11/19 10:28)
▼秘密兵器
(2012/6/27 11:48)
▼【歌旅】に想う
(2012/5/24 15:09)
▼紙一重
(2012/3/2 20:30)
▼心境の変化
(2012/1/28 19:56)
▼心の岩盤浴
(2012/1/23 03:24)

月別アーカイブ
2013年05月(1)
2012年11月(1)
2012年06月(1)
2012年05月(1)
2012年03月(1)
2012年01月(2)
2011年12月(1)
2011年11月(2)
2011年10月(1)
2011年08月(1)
2011年07月(1)
2011年02月(1)
2011年01月(2)
2010年12月(3)
2010年11月(2)
2010年09月(2)
2010年08月(2)
2010年07月(1)
2010年06月(2)
2010年05月(2)
2010年04月(1)
2010年02月(1)
2010年01月(1)
2009年12月(2)
2009年10月(2)
2009年09月(1)
2009年08月(2)
2009年07月(2)
2009年06月(3)