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秘密兵器
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2012年6月27日 11時48分
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またまた電車ネタで失礼します。
休日の夕刻どき、ちょい混み車内での出来事です。
運良く座れた僕の隣には、子連れの若いお母さんが腰掛けていらっしゃいました。
僕が腰を下ろすと同時に視線が交わった幼子は、人相の悪いオヤジに怖じ気づいたのか、赤く腫れぼったい目でキョトンとこちらを見つめています。
何やら周りに漂う不穏な空気から察するに、つい今しがたまで相当荒れていたご様子。
彼の態度の急変に
「まあ〜自分で泣きやんだの〜、エライね〜!」
と、間髪をいれずに小皇帝を褒めちぎるお母さん。
車内の緊張感も、一瞬緩んだような気がしました。
しかし、平和な時はつかの間。
凶暴そうな男が自分に危害を加えないことが分かると、幼児はすぐにむずがり始めました。
まだ会話が得意でなさそうな彼は、今相当に虫の居所が悪いらしく、母親がすることに対しことごとく刃向かっていきます。
時折僕の方に子供の体が触れるのを気にして、
「どうもすみません。」
頭を下げるお母さんの疲れ切った表情が少々気になりました。
そんな母親の気を引きたい小皇帝、次第にやんちゃぶりをエスカレートさせます。
あろうことか、今度は揺れる車内に裸足のまま仁王立ちになり、
「ママ〜 みて〜 ママ〜!」
得意そうに雄叫びを上げます。
「エライね〜、ぼく、すごいね〜!」
と言ってあげれば済むことなのに、若いお母さんにそんな余裕は残っていません。
「どうしてママの言うこと聞いてくれないの?!」
こりゃ、ちょいとヤバイ展開です。
周りに目をやると、せっかくの休日の締めくくりを、こんなヒステリックな場面で締めくくることへの不愉快さが、乗客の無粋な表情から見て取れました。
そんなピリピリした空気を察知してか、彼女の感情の糸も切れる寸前です。
「もう、やめて!!」
子供を無理やり引き寄せた母親は、そのまま小さな身体をシートに押さえ付けます。
『やっても〜た〜・・』
案の定、ありったけの大声で泣き出した小皇帝は、足を激しくバタつかせます。
それが母親のお腹を直撃したのか、母親はついに感情を爆発させてしまいました。
「あんたが蹴ったら、ママもお腹の赤ちゃんも死んじゃうんだよ!!」
そのセリフに、一瞬車内が凍りつきました。
もはやこれまでと感じた僕は、ポケットからある秘密兵器を取り出しました。
それは大抵の小悪魔どもをシャラップ状態にする、魔法のガジェットでした。
勘のいい方はもうお分かりでしょうが、そうiPhoneです。
実は、こやつを取り出すタイミングを探っていたのでした。
生憎その日はバッテリー残量があと数パーセントの状態だったもので、ずっと出し渋っていたのです。
いざ見せたはいいけれど、楽しんでいる最中に強制終了してしまっては最悪ですから。
しかし、そんなことは言ってられません。
僕は適当なアプリを立ち上げ、やおら小皇帝の鼻先に画面を差し出し、
「ほらっ 凄いよ〜、ここ触ってごらん!」
と、声をかけたのでした。
不意を突かれた敵は、毒気を抜かれ再びキョトンとしています。
思いがけない援軍の登場にこれ幸いと、
「うわ〜っ すごいね〜!」
母親も臨機参戦です。
老練な連合軍の思惑に翻弄された、若い司令官はひとたまりもありません。
次々に繰り出されるエンタメパンチに、シナリオ通り瞬時に武力放棄してくれたのでした。
少し余裕を取り戻したお母さんに、
「1歳半くらいですか?」僕は話しかけてみました。
「もう2歳半なんです。」すまなそうに答える彼女に、
『いらんこと言っても〜た・・』反省しながらも僕は続けました。
「こんくらいの頃は、宇宙人だと思った方がイイですよ。」
なんて知ったかぶりの会話は、さぞやぎごちなかったでしょうが、そうこうしているうちに、呆気なく親子の降車駅に到着してしまい、
「本当に助かりました。ありがとうございました。」
母親は頭を繰り返し下げながら、愛息を抱いて足早に降車して行きました。
急に静けさを取り戻した車内で、残り2パーセントになったiPhoneの電源を切りながら、僕は溜息をつきました。
恐らく都会の電車じゃなければ、こんな無用な緊張感も生まれないんだろうなと、しみじみ感じていました。
こんな場面は、子育ての経験がある人間であれば、誰しも思い当たるはずです。
そうでない人は、自分が子供の頃を思い出してみれば良いのです。
けれども、もしこれが隣り合わせの出来事でなかったとしたら、おそらく僕も他の乗客のように傍観者でいたことでしょう。
無関心を装いながら、イライラオーラを放出していたかも知れません。
「所詮他人事、心配りは自己満足。」
「人に迷惑をかける方が悪い。」
そんな都会の掟が、僕の中にもしっかり芽生えていました。(成長も早い)
けれども、そんな無言の圧力が弱いものを追い詰め、その刃がさらに弱い者に向かう、そんな負の感情の連鎖を見たと言ったら大袈裟でしょうか。
僕は新米ママのお礼の言葉を反芻しながら、そんな自分の中の世間を反省していました。
"愛の反意語は憎悪ではなく、無関心"
そんな言葉をさっき思い出しました。
隅っこに追いやっていた感情のリハビリに、今日から少しずつ取りかかることにしましょう。
それにしても、やっぱiPhoneは偉いね!
(スマートフォンをお持ちの皆さん、非常時用にお子様アプリを入れておくことをお勧めしますデス。)
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